Kのメモ JAN 18,2012 [店雑記・Kのメモ]
天ぷらの形
スルメイカの漁がない時にどうしてスルメイカの天ぷらが食べたくなるのでしょう。
冷凍のイカを買ってきて、Fさんと天ぷらを揚げます。
「天ぷら」の語源はポルトガル語のtempero(調理の意)、
イタリア・スペイン語のtemporaが元のようですが?
大阪ではもとは、
東京式の魚貝や海老などの衣揚げの「天ぷら」は「揚げもの」といったそうで、
大阪で「天ぷら」といわれたものは、魚肉のすり身を平円状、棒状、団子状を串刺にしたものを
胡麻揚げしたものだったと『大阪ことば事典(参1)』に記されています。
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「天ぷら」の話で興味深いのは、
江戸時代の文士、山東京山の随筆集『蜘蛛の糸巻き(1846年刊)』で
「天麩羅のはじまり」と題し記している一章です。
山東京山が十二、三の時、六十年前(1786年頃)の話として、
亡き兄の山東京伝の家の近くに住みつき、よく来ていた大坂の駆落ちものの利助が
大坂風の「天ぷら」を辻売(屋台売り)することを思いつきました。
そして、
江戸の胡麻揚げの屋台にかわる、いい名称がないか思案していたところ、
山東京伝が「天麩羅」と記したとされます。
利助が「なぜか」と尋ねたら、
「そなたは今、天笠浪人、ふらりと江戸に来て商売始めるからてんぷらなり、
天は天笠の天、即ち揚ぐること、ぷらの麩羅は小麦の粉のうす物をかくるという儀なり」と言ったとし、
「天麩羅」の文字の命名が亡き兄京伝であること、
以後、「天麩羅」が江戸で流行していった、と記しています。(参1)
「夏恵ちゃん。わかった?」
「わかんない」
「天ぷらの形、調べてみようか」と夏恵子にいい、
江戸時代の「天ぷら」の絵を覗いてみることにしました。
(絵1)1787年
はっきりは見てとれませんが、拡大鏡で覗くと
コロコロした形にも見えるような?
(絵2-1)1804~
これはまさしく大阪風のすり身の天ぷら、コロコロとしたものや、串刺の形が見てとれます。
(絵3)1848年~1854年
女性が手にしているのは衣付けの形です。
(絵4)江戸末期
この絵も衣付けの形が並んでいます。
年代を追って見ていくと、
1800年頃の屋台では大阪風の天ぷらの形が表現されています。
そして、
江戸末期には屋台で「天ぷら」と称し、衣付けの天ぷらの形に変化しています。
利助の話と合わせると、
当初、「胡麻揚げ」と称して屋台で売っていた衣揚げの天ぷらから
「天麩羅」と称する大阪風の天ぷらの流行があり、
「天ぷら」と称する衣揚げの天ぷらになったのでしょうか。
「天麩羅」と称したのはやはり大阪風のすり身の「天ぷら」だったのかもしれません。
「夏恵ちゃん。わかった?」
「わかんない。早く食べないとさめちゃうよ」
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いずれにしろ、
すり身の天ぷらも衣付けの天ぷらもアツアツはとってもおいしいです。
子供の頃、
近くに蒲鉾工場があって、平天もゴボ天も沢山あげていました。
最初は沈んでいたものが油面に揚がってきて
プラ、プラと見える油の泡が少なくなるとすくい上げていたように記憶します。
三時頃、近所のお兄ちゃんが揚げたてのクズ天(形が歪なもの)を新聞紙に包み込み
たくさん買ってきて頂いたことを思い出します。
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チンチンとベルを鳴らして屋台車を引いてやってきたお惣菜のチンチン屋さんの
スルメ天(スルメの足を柔らかくしたものを衣揚げしたもの)も美味しかったです。
(絵2-2)
(絵2)の屋台の天ぷら屋さんの横にスルメ屋さんの屋台が並んでいました。
夏恵子が
「商売がたきにもなるし、天ぷらの種類にはスルメ天はなかったかもね」と。
「なるほど、そうかもしれないわね?」と答えると
久しぶりに夏恵子の顔がニコニコ顔になっていました。
「いただきまーす」
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(参1)『大阪ことば事典』 牧村史陽 講談社 1996より
(その他参考文献)『たべもの日本史総覧』「てんぷら(天麩羅)」 宇田敏彦 新人物往来社 1993
(絵1)『江戸春一夜千両 3巻』 山東京伝 作 蔦島重三郎 出版 国立国会図書館 蔵より加筆
(絵2-1)(絵2-2)『近世職人尽絵巻』 国立東京博物館 蔵より加筆
(絵3)『風俗三十に相 むまそう(うまそう) 寛永年間 女郎之風俗』 大蘇芳年 作画 網島亀吉 出版 1888
国立国会図書館 蔵より加筆
(絵4)『風俗画報』第197 江戸市中世渡り種(十二) 江戸末期の天麩羅見世より加筆
タグ:天ぷら
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