Kのメモ JAN 21,2014 [店雑記・Kのメモ]
時
やっと骨折前の時に戻った、と思いながら
父の部屋の片付けを始める。
九十歳をこえて一人暮らししていた父の姿が浮かんでは消える。
二連の書架の片方にはラジオから録音したクラッシックの
カセットテープが500本以上あった。
クラッシック全集をつくるつもりだったらしい。
一度聴いてあげなくちゃ、とダンボール箱にFさんと詰める。
片方は短歌に関する書物とノート。
毎日歌壇賞をいただいた時の父の笑顔が浮かんでくる。
ひとつひとつ痕跡をみつけてあげなくちゃ、とみていると、
すぐに時間が経つ。
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押し入れタンスには、袋に下着や上着をしまい、
樟脳を入れ、きれいに整理され仕舞われていた。
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部屋はその時の記録で包まれているはずだけど、
その時を思い出してあげることができない。
旅立った後、遺影を家に戻してあげようと片付けていて骨折し、
その後三年ほどの空白が部屋の時を薄らげてしまっている。
Fさんも手伝ってくれてはいるけれど、
「あなたの親でしょ」と整理の判断はまかされる。
整理し父の痕跡を残したとしても、それは私だけの世界ではないか、、
自分自身整理も出来てないのに、、と。
グルグルまわりだす。
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一服、一服、といってダイニングでコーヒーを飲む。
チッチッといって鳥が飛び去る声を耳にする。
窓越しに目を移すけれど姿はない。
かえこが「スローだね」と。
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ノートの合間の角封から手紙をみつける。
兄が世話になっていたN先生の奥さんからいただいたもの。
N先生の多い書物の整理に困り、K大学に寄贈されたことが記されていた。
二連の書架で済んでいいのかもしれない。
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記されていない厚いノートと『勝手にさせて』を持ち帰る。
私が貸し手あげたのかしら、とパラパラとめくる。
おばあさん病にかかっていた女優Aさんは元気なのかしら?と
派手なピンクのなかに顔が浮かぶ。
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『勝手にさせて』 秋吉久美子 著 三一書房 1983
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